横浜国立大学上原研究室(磁性と超伝導の新物質・材料開発)

研究内容

我々の研究の目標は室温超伝導体の開発等
従来の物理学を超えた新しい物理を生み出す新物質の開発です。

以下に現在行っているテーマの一部を紹介します。

1.層状Ni酸化物での超伝導探索

La-Ba-Cu-O系での銅酸化物高温超伝導体 (HTSC) 発見以来、多くのHTSCが合成されました。その後、HTSCに倣い“s = 1/2スピンで2次元構造を持つモット絶縁体にキャリアドープを行う”という方法により銅酸化物以外で高温超伝導体を探す試みが続けられてきましたが、この方針で高温超伝導は見つかっていませんでした。しかしながら、“ 銅酸化物と同じ構造を持ち、3dx2-y2単一軌道とO2p軌道が主役のモット絶縁体へのキャリア注入”というHTCとほぼ同じ状況を実現できる物質での探索は行われておらず、HTSCと同様な結晶・電子的舞台では銅酸化物でなくとも高温超伝導体材料となるのか?ということは分かっていません。 このような背景のもと、我々はLn4Ni3O8 (Ln=La, Pr, Nd)に注目します。Ln4Ni3O8はHTSCの CuO2面と同構造のNiO2面が絶縁的ブロック層で隔てられているという点で基本的にHTSCと結晶構造は同じであります(下図参照)。さらにLn4Ni3O8中のNiイオンは平均+1.33価、3d電子の平均個数は3d 8.67であり、ホールドープされたHTSC中のCuイオンが 3d8 / 3d9 の混合原子価状態にあるのと同じ状況にあります。ここまで結晶・電子構造的にHTSCと酷似した物質は本系以外には無く、高温超伝導発現という観点から非常に興味深い物質です。実際、2019年にLn4Ni3O8の類縁化合物(Nd,Sr)NiO2薄膜で15Kの超伝導が報告されました。しかしバルクでの超伝導はいまだ報告されていません。我々は層状Ni酸化物でのバルク超伝導発現を目指して研究を進めています。

2.特異な磁気物性を示す新物質の探索

ぺロブスカイトMn酸化物は僅かな磁場印加に対して数桁にも及ぶ劇的な抵抗減少を示しスイッチング素子や磁気記憶媒体の読取ヘッド等への応用が期待されています。一方、いまだ合成されていない反強磁性ハーフメタル (HMAF) も磁場印加に対して磁場誘起超伝導等の特異な応答を示す可能性があります。反強磁性ハーフメタルとは伝導電子スピンが全部同じ方向に揃うと同時に伝導電子スピンと逆向きの磁性イオンが結晶内に存在することで試料全体としての磁気モーメントが0となっている物質のことです。
これら特異な現象は電気伝導を担う伝導電子が結晶中の局在スピンと強く結合していることに起因します。以上を踏まえ伝導電子が結晶中の局在スピンと強く結合しているCr3S4構造を持つ硫化物と硫化物スピネルで特異な磁気応答を示す物質、磁場誘起型超伝導体、強磁性超伝導体、HMAF超伝導体等の探索を行っています。現在までに、高圧合成法を用いることによって常圧では合成されることのなかった新物質がいくつか合成されてきていおり、今後の展開が期待されます。

3.強磁性超伝導体の開発

MgCNi3はTc ~ 7 Kの超伝導体で強磁性元素であるNiを多く含む事と、強磁性Niとの構造上での類似点から強磁性相関を内在したエキゾチックな超伝導体である事が期待されています。
我々はMgCNi3の強磁性と超伝導の関係を明らかにしつつ、強磁性と超伝導が共存する新規超伝導体を開発を目指しています。強磁性を示しつつ超伝導であるという状況はBCS理論に基づく超伝導の常識からすれば非常に奇妙なものです。このような強磁性超伝導体が実現した場合、超伝導体自体が自発的な内部磁場を持つので臨界磁場Hcは非常に大きいことが期待され、学術上のみならず応用上の観点からも非常に興味深いと思われます。
今までに、MgCNi3においてCを欠損させることで強磁性を示唆する磁気的振舞いを示すようになることがわかっています。また、C含有量調整だけでなくMgサイトにCd, Zn等をドープし、系にケミカルな圧力を印加した数多くの試料合成を行っています。系に圧力を印加することで伝導電子の波動関数のオーバーラップの度合いを変化させることができ、強磁性発現に重要なフェルミレベルでの状態密度を変化させることができます。Mgイオンとのイオン半径の比較からZnドープでは圧力印加、Cdドープでは負圧印加に対応します。 高圧合成法を用いることによりMgCNi3より強磁性相間が強く発達していると予想される物質の合成に成功してきており現在研究を進めています。

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